まず卵子凍結を行うことのメリットからご説明いたします。女性の年齢が上昇すると、妊娠しにくくなることは以前から知られていました。右のグラフは日本における出産率・流産率のグラフですが、年齢が上がっていくと出産率が下がるだけではなくて、流産率が上がっていくことがわかります。これらの数値は35歳まではなだらかな傾きですが、35歳をすぎると急速に傾きが急になっていき、どんどん出産が難しくなっていくのがわかります。
では、なぜこのように出産が難しくなっていくのでしょうか。実はその原因のほとんどが、年齢があがると受精卵の中にある染色体の本数が変化しやすくなるためということがわかってきています。染色体というのは身体をつくる設計図のようなものです。
すべての卵子は女性が生まれた時に既に造られており、その後新たに造られることはありません。20歳の女性の卵子は20年前にできた卵子であり、40歳の女性の卵子は40年前にできた卵子です。女性の年齢があがっていくと、加齢による変化によって卵子の中の染色体の分離というメカニズムがうまく働かなくなり(これを染色体の不分離と呼びます)、染色体の本数が多かったり少なかったりする卵子が増えていきます。染色体の不分離が起こった卵子が精子と受精すると受精卵の染色体の本数が変化してしまうことで妊娠しなくなり、また、妊娠しても流産する確率が増えてしまうのです。女性のライフスタイルは大きく変化し、30代・40代までは仕事が忙しかったり、パートナーに巡り合えない方も増えてきました。しかし、いざ準備が整って妊娠しようと思った時には、卵子にこのような変化が起きていて、なかなか妊娠しにくくなっているのです。
卵子を凍結しておくことは、そのような女性にとって助けとなる可能性があります。染色体の不分離というメカニズムは女性の年齢があがると起こりやすくなりますが、凍結した卵子では凍結した年齢のときから変化しません。つまり、少しでも若い年齢のときに卵子を凍結しておくことで、そこから先の年齢の上昇による染色体の不分離が起こりにくい卵子を凍結しておくことができるのです。
卵子凍結のデメリットとしては、卵子凍結を行うのに通院して複数回の注射や採卵術が必要であること。何年か後に凍結した卵子を融解しても、受精できるか妊娠できるかわからないことなどがあります。また、年齢があがることにより、妊娠中の母体合併症が増えてしまいます。