不妊治療

不妊治療の解説動画

男性不妊ドクターズ主催の埼玉妊活セミナー「知っておきたい妊活事始め」での辰巳院長の講演です。

タイミング法

タイミング法では、超音波を用いていつが排卵日か調べ、その少し前から排卵日の間に夫婦生活を行っていただきます。現在では、基礎体温だけでは排卵日を特定することはできないことがわかっており、実際の排卵日と異なる日を排卵日だと思い込んでいる方も多くいらっしゃいます。当院では、超音波と排卵検査薬を組み合わせて正確な排卵日を調べることで、妊娠できる可能性を飛躍的に向上させます。また、頸管粘液の性状を確かめることで、実際に精子が子宮内に入れているか、動けているかどうかを確認していきます。

排卵障害に対する薬物療法

排卵が起こりにくい場合には内服薬や注射により排卵誘発を行います。
よく用いられる内服の排卵誘発剤には、クロミフェン(クロミッド)、セキソビット、レトロゾール(フェマーラ)などがあり、温経湯などの漢方薬が用いられることもあります。注射ではHMGやFSHなどがあり、FSHは自己注射も可能です。

クロミフェンは日本で30年以上前から使われている実績のある排卵誘発剤です。排卵が遅い方には、卵胞を早く育ててくれることにより排卵を早める効果を期待でき、排卵が早すぎる方には、LHサージを抑制してくれることにより排卵を少し遅くする効果が期待できます。排卵個数は少し多くなる傾向があります。また、レトロゾールはクロミフェンで難治性の方、多嚢胞性卵巣症候群の方を中心に行われますが、排卵個数はクロミフェンよりやや少なくなる傾向があります。

これらの薬を適切に用いることにより、排卵障害のあるほとんどの方から排卵を起こすことができますが、重症の排卵障害がある場合には多胎や卵巣過剰刺激症候群などの副作用が起こることもあります。

人工授精

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人工授精は通常の性交では腟内に射精される精子を、調整して子宮腔に注入する方法です。卵管膨大部まで多くの精子を送り込むため、人工授精では、通常の夫婦生活に比べて妊娠する確率が2倍になるといわれています。また、排卵日付近に夫婦生活を行うことが心理的な負担になる方も良い適応になります。
排卵日に夫の精液を持参するか夫に院内で採精してもらい、精液から運動性良好精子を調整し、カテーテルで子宮腔に注入します。痛みはほとんどありません。妊娠率は通常の性交に比べ2倍程度になるといわれています。

2022年4月から保険適用になり、ご夫婦で主治医と治療計画をたてたあとで行う場合には費用は約6-8千円(自費では2万円)程度になります。人工授精は保険適用の年齢制限がないため、行う前にご夫婦で来院され、医師と治療計画書を作ることをおすすめしています。

当院では人工授精の精子調整には、精子の状態によってパーコール法、ミグリス法、ミニスケール・パーコール法のいずれかを用いて行っています。ここではミグリス(MIGLIS)法についてご紹介します。
パーコール法や密度勾配法とよばれる精子調整法では遠心沈降(機械の中で高速で回転させること)を必要としています。遠心沈降をおこなうことにより、よりよい形態と運動率をもつ多くの精子を回収できる一方で、遠心沈降が引きおこす酸化ストレスやそれに伴う精子DNAの一本鎖・二本鎖切断などの多くの副反応が起きてしまうことが知られています。それら精子DNAの損傷の多くは、受精後に卵子がもつ修復酵素によって修復されますが、その修復能力は女性の卵子の年齢に依存していることから、高齢女性ほど精子DNAの損傷が問題になることがわかってきています。
ミグリスでは精子の移動(migration)と、重力による沈殿(gravity sedimentation)を利用して遠心沈降を用いずに運動精子を回収します。ミグリスを用いた研究では、ミグリスは密度勾配法と比べて精子回収率、注入精子数が少なくなったにもかかわらず、全体の妊娠率は密度勾配法と遜色がないこと、また女性の年齢が高くなるとミグリスのほうが妊娠率が高くなることが報告されています。

この理由としては、高齢女性では細胞質の老化に伴いDNA修復能が低下し、精子DNAに与えられたダメージがより出現しやすくなるためであり、遠心沈降を用いないミグリス法では精子DNAへのダメージが少ないことが、妊娠率の向上へ寄与するのではないかと考えられています。
ミグリスは運動性良好で受精能の高い精子を抽出できるという観点からみると、人工授精のみならず体外受精や顕微授精における精子調整法としても有用であると考えられます。当院では精液所見に異常がなければこのミグリス法を用いて人工授精を行い、良い成績がでています。
卵管が通っており、精液所見が極端に悪くなければ人工授精で妊娠できる可能性があり、体外受精で妊娠できなくても人工授精で妊娠することもあります。体外受精をくりかえしても妊娠しない方は人工授精へのステップダウンもお考えください。

体外受精(顕微授精を含む)

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体外受精は1978年に、この写真のケンブリッジ大学のエドワーズ博士と、ステプトー博士により始められた画期的な不妊治療法です。
注射針(採卵針)を用いて卵巣から卵子を採取し(採卵)、卵子を入れた試験管に夫の精子を入れて受精させ、その受精卵(胚)を、カテーテルを用いて子宮腔に戻す (胚移植) ことにより妊娠を期待する方法です。当院では1991年から体外受精を開始し、現在までに1万8千件を超える採卵を行っています。

もともとは両側の卵管がつまっている場合に適応された方法ですが、その後、子宮内膜症、抗精子抗体、子宮頚部因子、原因不明不妊、一部の男性因子などに対しても非常に有効であることがわかってきました。1980年代には世界中に広まり、現在までに世界で数百万人の赤ちゃんが生まれています。
一方、男性の精子の数が少なかったり、運動率が低かったりすると、体外受精でも受精しません。このようなケースでは、卵子に直接精子を注入して受精させる顕微授精を行います。
また、体外受精や顕微授精を通じてできた胚は、初期胚・胚盤胞まで到達したのちその周期に移植を行うか、または凍結保存します。凍結胚は後日融解して凍結胚移植を行います。胚凍結保存は確立された手技で、現在日本では体外受精で生まれてくる子の80%以上は一旦凍結保存した胚を融解して移植することによって妊娠しています。日本の出生児の16人に1人は体外受精・顕微授精や凍結胚移植による妊娠です。
当院の辰巳院長は1986年に京都大学産婦人科よりオーストラリア、アデレード大学に派遣され、体外受精-胚移植法の技術を修得しました。帰国後、京都大学体外受精チームの中心メンバーとして活躍、以来30年以上にわたり、体外受精の臨床の第一線で活躍しています。 また当院は、JISART(日本生殖医療標準化機構)の厳重な審査にパスし、施設認定を受けています。

体外受精/顕微授精は次のような流れで行われます。

1. まず、排卵誘発剤による卵巣刺激を行います。

体外受精では、妊娠の確率を上げるために、原則として、排卵誘発剤の注射や内服を行い複数の卵子を育てます。日本では低刺激法をメインとしている施設も多くありますが、採卵あたりの妊娠率はどうしても低くなります。当院では個々の患者さまの卵巣の機能や排卵の時期、薬剤への反応性などを考慮して、その患者さまにとって最も適した卵巣刺激法を行っていきます。この方法により、必要最小限の採卵回数でご妊娠いただくことが可能になります。
当院では以下に示したすべての卵巣刺激法を行うことができます。主治医から患者さまごとにそれぞれの提案が行われますので、ご相談しながらすすめてください。

卵巣刺激を行っている間には数回来院いただきます。必要があれば血液検査を行います。血液検査により、排卵を起こすシグナルの評価・注射の量の調整・卵巣過剰刺激症候群のリスクなどを検査します。卵巣の機能・卵胞の発育状態などにより血液検査の種類・回数などは異なります。

2. 次は採卵です。

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良い卵胞が育ったら、その中にある卵子を回収します。これが採卵です。 黒く丸く映っているものが採卵直前の卵胞です。
採卵は静脈麻酔を行い、超音波で見ながら腟から採卵針(長い注射針)で卵胞を穿刺し、その中にある卵子を卵胞液と一緒に吸引します。採卵に要する時間は5〜20分位です。患者さまの多くはうとうとしている間に処置は終わります。

3. 次は媒精、顕微授精、胚培養、胚凍結保存です。

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卵子がとれたら、ご主人に精子をとっていただきます。精子を調製し、卵子にふりかける操作を媒精(体外受精)といい、この操作によって受精が行われます。
ここで、精子の状態が悪いと、たとえ体外受精により卵子の周囲に精子を送り込んでも、精子が卵子の回りを取り囲んでいる透明帯という殻を破ることができず、受精できません。そのようなことが予想される時には、顕微鏡下に細いガラス管を使用し、精子を卵に注入して受精させる顕微授精を行います。これまでに顕微授精により世界で数百万人の赤ちゃんが生まれています。

ここは当院の培養室です。右に並んでいる箱が培養器で、卵子や精子、受精卵を培養しています。培養室内での操作は必ず2人で行い、一人が操作を行い、もう一人が間違いがないかをチェックします。このようなダブルチェックシステムを行うことにより、卵の取り違えなどが起こらないよう徹底しています。また、当院では先進医療に収載されている最新のタイムラプス装置(Embryoscope+)を導入し、より高度な胚培養システムを構築しています。

タイムラプス装置とは、培養器(インキュベーター)の中に卵をおいたまま、微量な光を当てて10分から15分ごとに写真をとり定点観察していく装置です。今までは卵の観察のため外に取り出して観察して評価していました。その際の胚の周りの環境の変化(pHや酸素・二酸化炭素・窒素濃度など)が胚発生に悪い影響を与えていました。タイムラプス装置ではほとんど卵に影響を与えないような周波数の光を当て経時的に胚をみていくことで、細かい胚発育がわかるようになりました。

受精卵は図の様に卵割していきます。原則として、胚凍結は初期胚(4細胞または8細胞期)、胚盤胞の段階で行います。この場合、まず1個の胚を初期胚で凍結保存し、残った胚で胚盤胞になったものを凍結保存しています。初期胚凍結を行っていない病院もありますが、子宮外の環境におく期間をできるだけ短くすること、また胚盤胞移植では子宮内膜に着床しづらい方が一定数いらっしゃることから、当院では初期胚凍結には意味があると考えています。

凍結する際には、初期胚の場合には割球の大きさやフラグメンテーションとよばれる小胞の数の多い少ないによってグレードがつけられ、また胚盤胞では内細胞塊とよばれる将来赤ちゃんになる部分と、栄養外胚葉とよばれる将来胎盤になる部分のそれぞれの細胞の量によってグレードがつけられます。ここで、今までは胚の形態学的(見た目の)評価のみに頼っていましたが、タイムラプス装置を用いることで、実はどのようなタイミングで分裂するかも非常に大きな要素であることがわかってきました。当院では先進医療であるタイムラプス装置を用いることにより、より正確な胚の評価を行い、着床する可能性が高いと考えられる胚を選別して凍結しています。

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採卵できた卵子のすべてが胚盤胞となり凍結できるわけではありません。採卵された卵子は、成熟しているかどうか、受精できるかどうか、初期胚まで到達できるかどうか、胚盤胞まで到達できるかどうか、という一つ一つの条件をクリアして初めて凍結することができます。凍結できる個数は以下のように目安として10個卵子がとれて3つ凍結できるくらいです。一人ひとりによってばらつきがあるため、少ない個数の卵子から多く凍結できる場合もあれば、逆もあります。ですからやはりある程度の個数の卵子を採卵できることを目指して、しっかりと排卵誘発を行なっていくことが、妊娠にとっての早道といえます。

4. 最後のステップは胚移植です。

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採卵した周期にそのまま移植することを新鮮胚移植、胚を凍結して別の周期に移植することを凍結融解胚移植といいます。現在は凍結融解胚移植が主流ですが、より望ましいと考えられる時には新鮮胚移植を行うこともあります。初期胚、または胚盤胞を子宮腔に注入する操作が胚移植です。胚を移植用の培養液と共に細いカテーテルに吸って、超音波を見ながら子宮腔の最も良い位置にそっと置きます。痛みを伴わない操作で通常は数分以内に終わります。

5. 妊娠判定

胚移植の10〜14日後に妊娠判定を行います。妊娠判定は医療用の尿中hCG検査薬を用いますが、尿の検査のみで判断しにくい場合には血液検査を行います。妊娠が成立した後には、妊娠10週ごろまでしっかりと経過をみていきます。
以前は体外受精や顕微授精は特殊な妊娠方法でした。
しかし、その有効性や安全性により、最近では一般的な治療法となっています。 当院の28年間の経験の積み重ねと最新の技術の導入により、それぞれの皆様にとって最も良い体外受精・顕微授精を受ける事ができるよう、スタッフ一同できる限りのサポートをさせて頂きます。
当院での体外受精の実績について

アシステッド・ハッチング

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胚は透明帯という殻に覆われており、その殻を破って孵化して着床に至ります。この殻が年齢が高くなったり、胚を凍結したりすることにより硬くなり、胚がうまく孵化できず、結果として着床できない可能性があるといわれています。そこで透明帯の一部をレーザーで穴を開け、胚が孵化するのを助ける方法がアシステッド・ハッチングです。過去の胚移植で妊娠不成功であった場合にはアシステッド・ハッチングの有効性が高いとされていますが、全症例に対してルーチンとしてアシステッド・ハッチングを行うことは推奨されていません。多胎妊娠になりやすいという報告もあります。

2022年4月より保険適用となり、当院でも胚移植で1回以上着床に至らなかった患者さまには行うことができます。

高濃度ヒアルロン酸 含有培養液

通常子宮内に胚を移植するときには、着床を手助けする物質を含む培養液を用いて胚を移植します。ヒアルロン酸は人体に存在する天然化合物です。組織の結合剤や保護剤としても機能すると考えられていることから、胚の着床を助ける目的で移植用の培養液に添加することができます。凍結胚を融解した後、高濃度ヒアルロン酸含有培養液へ胚を移し、その後移植を行います。現在までには、高濃度のヒアルロン酸により、合併症が増加するというエビデンスはありません。

2022年4月より保険適用となり、当院でも胚移植で1回以上着床に至らなかった患者さまには行うことができます。

手術療法

卵管閉塞

卵管が詰まっている場合には、卵管鏡(FT)、卵管を通す手術、体外受精などの治療が行われます。最近では体外受精が普及したため卵管を通す手術を行うことは非常に少なくなっています。卵管鏡は開腹手術に比べると侵襲が少ないので現在でも行われていますが、子宮から卵管に入ってすぐのところで閉塞している場合のみが適応となります。一度卵管が通っても再度詰まってしまうこともあります。

子宮内膜症、チョコレート嚢腫

子宮内膜症により癒着が起きたり、チョコレート嚢腫がある場合には手術を行う場合があります。しかし、妊娠にむけて手術がよいのか、それとも体外受精を行ったほうがよいのか判断が非常に難しく、主治医とよく相談する必要があります。不妊治療中に子宮内膜症の薬物療法が行われることはほとんどありません。

子宮筋腫、子宮内膜ポリープ

子宮筋腫や子宮内膜ポリープがある場合に手術が必要なこともあります。しかし、実際には大きな病変があってもすぐ妊娠する方もいれば、小さい病変でもなかなか妊娠しない方もいらっしゃいます。当院では、婦人科内視鏡技術認定医に手術について相談することもできます。

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